フィクションと劇場型犯罪の世界

劇場型犯罪や時世を抑えつつも質の高い娯楽作品!

 東のエデンは少女漫画テイストのラブストーリーに、社会派サスペンスや、今流行りの海外テレビドラマのような展開を盛り込んだ非常によく出来たアニメ作品だ。 様々な事を考えさせてくれるけれど、決して難しい内容では終わらないという側面も持ち合わせているので、ある意味、攻殻機動隊などの劇場型犯罪を取り扱った作品などが合わなかった人にはこちらがオススメかも知れない。クライム・サスペンスとしても、ラブストーリーとしても、またアクション作品としても楽しめる懐の広さと、物語の強度が魅力だ。

 元々、二〇〇九年の四月にノイタミナ枠で放送されていた番組だが、あまりの人気から、劇場版が二つもつくられる程の物となった上、更に、この作品でメインとなる要素でもある「携帯を利用して世界や街を操る」というものはUBISoftのWatchDogsというゲームにも影響を与えるなど、世界的にも評価が高まっている作品でもあるのだ。

作品詳細

 原作・監督は神山健治が担当しており、キャラクター原案は羽海野チカ、アニメーション制作はProduction I.Gという布陣で描かれるノイタミナ初のオリジナルストーリーアニメが、本作、東のエデンである。また脚本には、ストーリーライダーズのあの佐藤大が、参加しており、ストーリー面における面白さは殆ど保証されたようなものでだったのだが、実際の放映時にも話題になり、第14回アニメーション神戸賞作品賞・テレビ部門、東京国際アニメフェア2010・第9回東京アニメアワード優秀賞テレビ部門受賞作品。2009年(平成21年)度文化庁メディア芸術祭(第13回)審査委員会推薦作品アニメーション部門/長編(劇場公開・テレビアニメ・OVA)に選ばれた。

 物語は記憶喪失の青年と100億円の電子マネーがチャージされている謎の携帯電話を巡るサスペンス・アクション作品なのだが、世界観は攻殻機動隊シリーズの前時代に当たると同監督が発言していることからも、物語にある程度のつながりが見受けられるようにはなっている。

ストーリー

ある日の月曜日、日本各地に10発のミサイルが投下された。当時の総理大臣が「迂闊だった」と失言したことから、『迂闊な月曜日』と呼ばれたこの事件は、奇跡的に1人の犠牲者も出なかったこともあり、人々は次第に危機意識を失っていった。それから3ヶ月が経ち、とうとう11発目のミサイルが発射され、旅客機を直撃した。

 その頃、大学の卒業旅行にてホワイトハウスを訪問していた森美 咲は、あることから警備員に捕まりそうになっているところを、滝沢 朗と名乗る同い年の男性に救われる。滝沢は記憶を失っており、全裸姿であったが、82億円の電子マネーが入った風変わりな携帯電話(ノブレス携帯)を所持していた。その後、共に日本に帰国した滝沢達は自分が何者なのかについて探り始め、次第に怪しげな事実が一つずつ見えてくるようになる。そんな滝沢を、現状と将来に悩んでいた咲は、振り回されながらも次第に心惹かれるようになる。

 間もなく滝沢は自分が、セレソンゲームというものに参加させられている12人のうちの1人(セレソン)だと知る。そのセレソンゲームとは100億円を好きなように使って閉塞感漂う日本を救うことを目的としているもので、最初にゴールした1人以外は「サポーター」により死がもたらされるという話だった。そんなセレソンの証、ノブレス携帯だが、これを使えば、国家権力を動かすほどの依頼もでき、依頼が受理された場合はそれにかかった費用が電子マネーから引き落とされるという仕組みなのであった。またミサイル攻撃もそのゲームによるものであった。資金を使って何を買ったかは逐次他の11人に通知されるようになっており、セレソン同士の妨害工作も許されている。

 咲は大学のサークル「東のエデン」の仲間と滝沢を引き合わせる。これにより、ゲームの進行状況が見えてくると共に、滝沢が何者であるかが明らかとなっていく。咲は滝沢を理解しようとし、滝沢も咲の思いに応えようと再度のミサイル攻撃から人々を守ろうとする。

主要人物

滝沢 朗(たきざわ あきら)

 セレソンNo.9の記憶喪失の青年、物語上では表の主人公だとされている人物で、明るく前向きな性格の上どこか憎めないところもある人物。人と打ち解けるのが早いが、謎も多く抱えており、テロリストとしての容疑をかけられている。言葉が通じない外国人や板津のようなひきこもりのニートさえも簡単に打ち解けることの出来る魅力を持つものの、時に誤解から辛辣な思いをさせられることも多い。ニューヨークで産まれ、5歳まで母と共に過ごしたが、その後、日本に移住した際に、デパートのアイス売り場に置き去りにされる形で飯沼誠次郎に預けられ、中学卒業まで飯沼に育てられていた。その後、飯沼の下を飛び出した滝沢は、住み込みの奨学生として¨お金をもらう練習¨のために、新聞配達のアルバイトを始める。滝沢は世田谷区の新聞配達店で働いていたらしく、勤続年数や勤務態度を評価され、販売店の代表として表彰されるほどだった。滝沢は新聞配達員だったころに、新聞を買い求めた亜東才蔵と初めて出会う。この頃、すでに100億円の遣い方を聞いて回っていた亜東は、今時苦学生でもないのに、好き好んで新聞配達のアルバイトをしている滝沢に興味を持つとともに、¨お金のもらい方¨に興味を持つ滝沢の、その先の答えを知りたいと考え、後に彼をセレソンに任命した。

 キャラクターデザインにおいては、キャラクター原案を務めた羽海野チカの代表作『ハチミツとクローバー』の登場人物 森田忍が、神山健治監督のイメージする滝沢に近かったため、彼に似た雰囲気のキャラクターを、とオファーしデザインされた。

森美 咲(もりみ さき)

 昭和64年1月6日生まれ。22歳。卒業を間近に控える大学4年生で、本作のヒロイン。控えめな性格の女の子でありながらも、時折思い切った行動をとる。両親を事故で亡くし、パン屋を営む姉夫婦と同居しており、POP作成に才能がある。バイト先の書店で彼女がPOPを書いた本は多数売れたという逸話があるそうである。両親の死後は姉の朝子に面倒をみてもらい、大学に進学した。義兄の良介に対して、朝子との結婚前から密かに片思いをしていたせいで、罪悪感と自己嫌悪に苛まれていた。良介のコネで就職が内定。

 またサークル《東のエデン》の仲間達とアメリカ東海岸に卒業旅行に行った際に、単独で訪れたワシントンD.C.でトラブルを起こし、警備員に確保されそうになる。そこに偶然現れた滝沢の機転で難を逃れ、一緒に日本に帰国した。滝沢に対し「私の王子様」ではないかと当初から好意を寄せており、行動を共にすることで次第に想いを深めていく。

ワシントンD.C.でのトラブルとミサイル事件による航空ダイヤの乱れが重なったせいで内定者面談を欠席してしまい、後日面談に行った際に食堂で牛丼をぶっかけられるという嫌がらせをされた上に内定を取り消され、身の置き所をなくしてしまう。それを受けて滝沢が持ちかけた《東のエデン》起業に賛同し、平澤たちに引き合わせた。

 ある事件の騒動の際に、通話中の携帯電話で滝沢の会話を聞いてしまい、滝沢が犯罪者なのではないかと疑念を抱く。しかし、ある会話から滝沢が記憶を消した真相が暴露された時、自身が滝沢を失望させた人間の一人だと悟る。だが、彼の孤独な戦いに理解を示し、彼を理解する唯一の人間となっていく。

 60発のミサイルが放たれた時は滝沢を見守り、彼からノブレス携帯を託された。滝沢の失踪後は、大学を卒業し、《東のエデン株式会社》のデザイナーとなる。休みが取れた際には滝沢と旅した場所を巡り、彼を捜す。

物部 大樹(もののべ だいじゅ)

 セレソンNo.1。30代前半でATO商会の執行役員。ATO播磨脳科学研究所の責任者を務める。本作における裏の主人公とも言える人物で、滝沢とはコインの表裏の関係にある。知的な顔立ちと切れ者な立ち振るまいに、赤いカレッジリングをして赤い車 に乗っている「謎の男」として、滝沢を監視していた。かつては将来を嘱望視されていた財務官僚であり、官僚になる前から真剣に日本を憂い、救おうと考え、官僚として政治家たちに日本が抱える多くの問題を追及して、法律を提案したが、自らの保身しか頭にない政治家たちによる永田町の醜態に失望した物部は真っ当な方法では日本を救うことは出来ないとの結論に達していた。

JUIZ(ジュイス)

 ノブレス携帯にて様々な応対する優秀なコンシェルジュで、個々のセレソンにそれぞれ異なる人格で対応している。どの人格も職務に忠実で、ルールや他のセレソンの申請に抵触したり、システムの有効圏外や残高不足であったりしない限り、申請を却下することは原則的にしない。また基本的に、電子マネーを現金へと変えることは目的遂行上必要不可欠な場合を除いては受理しない。また、通信を終える際には「今後も救世主たらんことを」と言うのが常だが、それに付随する言葉や言い回しは、セレソンや状況に応じて異なる。

 その正体は、ある人物が命じて作り出した12台の巨大なスーパーコンピューターAI(人工知能)で、セレソン1人に1台が割り当てられている。

セレソン(Selecao)

 「この国(日本)を正しき方向へ導く」義務を負った12人の人間として、Mr.OUTSIDEによって一方的に選ばれた人々。セレソンに選ばれた人間にはノブレス携帯が提供され、セレソンの行いを「セレソンゲーム」と称している。

「正しき方向」の基準はMr.OUTSIDEが独善的に判断しており、一般常識的なそれと同一とは限らない。

 以下の事項に該当したセレソンはサポーターにより「的確な死」がもたらされる。

ノブレス携帯(ノブレスけいたい)

 セレソンが持つハイテク携帯電話。ジュイスと通話し「正しき方向へ導く」ために必要な願いを告げると、物理法則的に可能な事象であるならば、必ず、それが叶えられる。初期段階では100億円の電子マネーがチャージされているが、受理された申請をすべて金額に換算され必要経費として電子マネーの残高から引いていく、他のセレソンのマネー引き落とし額と使用目的の閲覧も可能になっている。

 これらの申請内容の規模や実現難易度は電子マネーの減る額と比例しており、実際に近藤という人物が3人連続で殺人を依頼した際は149万9346円だったり、滝沢がホテル・インソムニアを買収した際には15億2320万円だったりする。60発のミサイル迎撃は50億円で実現された。また、首相に文字通り「ギャフン」と言わせる(発言させる)ための金額が60円だったことから、単に資金力に頼るだけでなく、権力やコネをも駆使した方法が用いられている。

 しかし、流石に個人の意思を操作することはできない為、漠然とした願いの場合はジュイスによって最も近いと思われるものに解釈される。ややこしい申請の場合は、幾つかの段階に分けて叶えられ相応の期間を要する。途中で申請を取り消した場合は、そこまでに起こった事象はそのままとなる。また、王様になると申請した滝沢を結城という人物が殺害できなかったように、他のセレソンの申請に抵触する申請はジュイスによって却下される。(つまり申請が通れば殺害申請を出せたかもしれないという事)

 基本的に、指紋認証のセキュリティがあるため、他者には電子マネーの使用や履歴の閲覧はできない。また、電子マネーの現金化も不可能である。しかし、依頼を推敲する過程である程度必要になるような案件であれば、口座へ電子マネーが現金化して支給されることとなる。またこれらの電子マネーはジュイスへの申請によって減る以外にも、コンビニといった普通のお店でも使うことができ、作中では滝沢が梅ガムを購入している。

この作品の特徴

 この作品の中で最も印象的に使われる言葉にはノブレス・オブリージュ(Noblesse Oblige)というものがある。これはジュイスがセレソンへかける言葉であり、ノブレス携帯本体にある刻印でもあるのだが、「高貴な者が有する義務」を表す言葉だ。劇中では「持てる者の義務」と説明されているが、これが一つの作品のテーマともなっている。初期段階にチャージされた100億円を用いて、持てるものの義務を果たしていくという物語でもあるのだが、それと同時に、実際の事件や現実からのメタファーなども含まれており、義務と言われている物の苛烈さと、義務を果たしたことによって得られる物の虚しさなどが強調されていることもあり、それ自体が物語を非常に練度の高いものへと押し上げているといえるだろう。