フィクションと劇場型犯罪の世界

マトリックスなどにも影響を与えた作品

 本作、攻殻機動隊シリーズは映画マトリックスにも影響を与えたとして、非常に有名な作品ではあるが、実際にマトリックスなどと違って、こちらの作品は未来を舞台とした政治劇などを含む社会派な作風になっている。特に、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』では、現在の日本でも問題になっているサイバーテロや、サイバー技術を利用した劇場型犯罪なども取り扱っており、2002年の段階で、既にこれらの現実を見据えていたと考えると、かなり恐ろしい作品だと言えるだろう。

 第2話の「暴走の証明 TESTATION」が「平成14年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞」、そして『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズ全体が「東京国際アニメフェア2003 公募・アニメ作品部門優秀作品賞」をそれぞれ受賞している。

 これらは海外における評価も非常に高く、特に笑い男に関しては非常に影響を受けた人も多かったのではないかと思われる。ちなみに本作と続編である『S.A.C. 2nd GIG』のDVD/ビデオ累計出荷本数は、合わせて150万枚/本以上に及ぶ。

実は原作と相違点がある

 この作品だが、実は原作漫画『攻殻機動隊』や押井守による映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』とは、時代設定や主人公草薙素子を含む登場キャラクターの設定、ストーリーを始め多くの相違点がある。故に本作は第三の「攻殻機動隊」とも言われ、原作や映画版では「人形遣い」を中心に話が進行するが、本作品では「もし草薙素子が人形遣いと出会わず、公安9課に残っていたら」という前提に立ったパラレルワールドとして物語が展開されている。

 原作や映画版に対するオマージュが随所に見られるものの、テーマ自体は原作にあるような「電脳化・義体化社会における人間の定義」というものよりも、近未来を舞台に現代社会にも通じる社会問題を主題としている。それ故に、劇場型犯罪と模倣犯という構造を真っ先に描いて絶賛された作品の一つでもあるといえる。

笑い男事件

 本作でもっとも印象的な事件として語られるのは、2024年2月1日に発生した、セラノゲノミクス社社長アーネスト瀬良野(セラノ)誘拐と、その後のウイルスプログラムをばら撒くという手口を使った、マイクロマシンメーカー6社に対する脅迫、もしくはこのサイバーテロによる事件だろう。「広域重要081号事件」と呼ばれるこの事件だが、特筆すべきなのは、第一の犯行時である身代金100億円、金塊100kgを要求した日から数日後の事件である。

 2024年2月3日、警察庁会談直前の天気予報のTV生中継現場に、灰色の帽子と青いフード付ジャンパーを着た青年(アオイ)が現れ、瀬良野を拳銃で脅迫した。その時点で、犯人の顔はその場にいた全ての人に見えていたものの、その顔の全ての記録は犯人によって書き換えられていた。それは、現場にいた全ての人々や駆けつけた警察官の電脳、AIつきのロボットカメラ、更には逃走経路にあった監視カメラなどの画像機械の記録にいたる、全てのネットワークにつながるものに記録された自分の顔を、過去にさかのぼってまで、のちに「笑い男(ホップ=ラッフィングマン)」とよばれるマークにリアルタイムで上書きをしたというものであった。逃走現場にいた浮浪者の2人組だけについては、電脳化をしていなかったため犯人の顔についての記憶が上書きされなかったものの、記憶が曖昧なため捜査の役には立たなかった。また、被害にあったメーカーへ政府が公的資金を導入したことをきっかけに、笑い男は事件の収束宣言を出した。その後、笑い男事件は迷宮入りとされ、真相は一般には不明のままになった。

 また、あまりにセンセーショナルな事件だった故か、これ以後犯人である「笑い男」の模倣者が数多くの事件を引き起こし、「笑い男マーク」がかばんやTシャツにプリントアウトされ流行するなど一種の社会現象となっている。

 その後も度々笑い男を名乗る人物による犯行が何度か繰り返されるようになるが、これらはアオイによる犯行ではなく、彼を騙る何者かによる犯行とのことだった、この模倣犯を探り当てる部分にも、この物語の肝があると言ってもいいだろう。

実際にあった事件のモチーフとなっているもの

 特に実際にあった事件を参考にしているとかんがえられるものを上げるとキリがないのだが、一つだけ上げるとすれば、やはり、笑い男を名乗る人物による、マイクロマシン製造ラインに殺人ウイルスを混入させるという脅迫と身代金要求があるだろう。当然ながら、セラノゲノミクス社を筆頭に、脅された大手のマイクロマシン会社計6社は、株が大暴落し、その後三ヶ月近くも脅迫が続いたものの、公的資金を被害会社に導入するということによって株価回復を図っている。

 この際に、笑い男を名乗る人物は株の空売りを行い、財をなしたのでは無いかと言われており、これはまさにグリコ・森永事件から着想を得たものだと思う。ただ、一つだけ異なるのは、アオイという人物が正義感に駆られて行ったテロによって有名となった笑い男という象徴が、一人歩きを始めて、様々な犯罪を犯したり、都合のいいように使われ始めるというところがあるだろう。

 そんな中で再び、動き始めるアオイと、同じような義憤に駆られ始めるトグサの心理描写が非常に魅力的だ。 実際、非常に物語が入り組んでいて、この辺りを理解するのには最初は骨が折れるかもしれないが、間違いなく名作なので見てもらいたいと思う。